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素材の旅

vol.02 美味しい牛乳を求めて 〜 北海道根釧地区浜中町編 〜

最高品質の牛乳を提供し続ける浜中町

Konsen region in Hokkaido

文=北川聡-㈱京都吉祥庵 代表取締役-
Text by Satoshi Kitagawa
写真=菅原秀志
Photos by Shuji Sugawara

北海道といえば、大規模な農業をイメージしがちだが、
北海道道東に位置する根釧地区の浜中町周辺は農業には決して恵まれていないところだ。
しかしその逆境をバネに、広大な土地を活かして徹底した品質管理を行い、今では日本で最大規模の酪農王国となっている町。
今回は私たちが追い求めたこの酪農王国の牧場を訪れてみた。
※当店は牛乳・生クリームは北海道産(浜中町を中心とする根釧地区が主)を100%使用しております。

JR北海道根室本線の茶内駅が浜中町の駅。<br>
この駅はルパン三世の生みの親モンキーパンチの故郷。
JR北海道根室本線の茶内駅が浜中町の駅。
この駅はルパン三世の生みの親モンキーパンチの故郷。
日本の牛乳生産量は減少し続けている。<br>
私達が大切にしている安心安全な乳製品を守っていかなければならない。
日本の牛乳生産量は減少し続けている。
私達が大切にしている安心安全な乳製品を守っていかなければならない。
美味しい牛乳との出会い
選び抜かれた牛乳の産地を目指し

私が小さい頃、給食には必ず牛乳が一人1パックづつ提供され、牛乳好きな私は、他の人の分まで手を伸ばし、美味しく飲んでいた記憶が今も残っている。

ところで皆さんは牛乳の生産量が減り続けていることをご存知だろうか?

少子化による学校給食での使用量が減少していることに加え、消費者の牛乳離れや牛の飼料の価格が高騰しつづけていることもあり、全国の酪農家数は20年前と比べて約半分にもなっているのだ。

このまま牛乳の生産量が減ると、私達お菓子屋にとっても、価格の上昇や品質の低下など困ってしまうことだらけなのだ。

現在、私達は1日何百リットルという生クリーム・牛乳を使用している。 もちろんだが、使用するものは安心安全で、美味しいものを使いたい。そんな背景の中出会ったのが、日本で最高品質の牛乳の一つである、この浜中町の牛乳である。

今回はその選び抜かれた牛乳の産地を訪れた。

そこは行ってみて初めて分かった、想像以上に先進的な技術によって支えられた安全安心そして美味しい牛乳の故郷であり、新規就農を増やす取り組みも行っていて、今後の日本の酪農を支えていく町でもあった。

北海道 浜中町がある根釧地区には
酪農に恵まれた環境が整っている

牛乳と聞けば、北海道と思い浮かべるのは私だけではないだろう。

大規模な牧場、ストレスフリーな放牧風景。

しかし、北海道産の生乳は日本全体の約5割にしか過ぎず、広大な土地で酪農を行っているのは、北海道以外では限られた地域なのかもしれない。

その北海道の中でも特に良質な牛乳を生産し続けている地域がある。それが北海道の道東、根釧地区と呼ばれる地域だ。根釧地区とは、ふたつの地域、根室の「根」と釧路の「釧」をとった名称である。

この地域の年間の平均気温は5.7℃ほど。

この涼しい気候のおかげで、牧草を栽培しても害虫や病気の発生が少なくてすみ、農薬を出来る限り使わない、よい牧草ができるのだそうだ。

車を走らせると、ところどころ
に青刈りした牧草を発酵させた
サイレージが横たわっている。

車を走らせると、ところどころ に青刈りした牧草を発酵させた サイレージが横たわっている。
高橋パティシエが見つめているのは、この地で育てられた牧草。<br>
この牧草がサイレージになっている。
高橋パティシエが見つめているのは、この地で育てられた牧草。
この牧草がサイレージになっている。
浜中町農協酪農技術センターの存在

その根釧地区の中心的存在なのが浜中町だ。通常農協と聞けば、農作物が中心だと連想させられるが、この浜中町にある農協は、酪農専門だというから驚きだ。

この農協は、他にはない特別な特徴がある。それこそが、“酪農技術センター”の存在である。早速訪れてみたら、技術と研究レベルの高さに驚いた。

ここでは土の分析ができ、肥料設計書まで書くことができる。それだけではなく、草の分析を通して、その草の栄養素から、この牛は1日30キログラム搾れるとしたら、この草だけでは何と何の栄養分が足りないから、そのためには購入した配合飼料を何キロやればいいと、そこまで計算が行えるセンターなのだ。

牛はストレスを受けると、牛乳にすぐ細菌が混じってしまう敏感な生き物。しかし、ここの乳牛たちはこの酪農技術センターのおかげで、1頭1頭の健康状態を日々確認し、安心な牛乳を供給してくれるのだ。

美味しい牛乳を作るためには、健康な乳牛を育てないといけない。健康な乳牛は、健康な草から。草は土から。

意外にも、アメリカではトレサビリティー(生産履歴)を明確にするやり方が当たり前だそうで、日本の酪農は欧米に比べるとやや遅れているのが実情だそうだ。

あの有名なハーゲンダッツも、この浜中町の牛乳を評価し、当初から日本国内の生産はほぼ全てこの浜中町の牛乳が使われているそうだ。

美味しいには理由がある、という訳だ。

  • 域内の牛は1頭1頭管理され、毎日健康状態をチェックしている。
    域内の牛は1頭1頭管理され、毎日健康状態をチェックしている。
  • (左)牛の健康状態はデータで管理されており、何が不足しているかなど、一目で分かるようになっている。<br>
(右)この機械で毎日搾乳された生乳の細菌検査を実施し、菌数の高い生乳が製品に混入しないように徹底されている。
    (左)牛の健康状態はデータで管理されており、何が不足しているかなど、一目で分かるようになっている。
    (右)この機械で毎日搾乳された生乳の細菌検査を実施し、菌数の高い生乳が製品に混入しないように徹底されている。
日本の酪農を救え!<br>
新規就農をサポートする体制づくり
日本の牛乳生産量は減少し続けている。
私達が大切にしている安心安全な乳製品を守っていかなければならない。
日本の酪農を救え!
新規就農をサポートする体制づくり

この浜中町農協は、若手酪農家の研修専用の牧場も保有しており、日本中から浜中で勉強し、酪農家になりたいという方が絶えないそうだ。今では空き待ちが出るほどだとか。

採用基準は、「妻帯者であること」「40歳以下」「やる気がある人」だという。大自然の中で働けるとはいえ、作業は重労働。良いときも、大変なときも夫婦で乗り越えていかないと。作業を拝見していると納得だ。

365日休むわけにいかない酪農。今では町ぐるみで助け合って交代で休みを取る制度なんかもあって、この町は本当に酪農一色といった雰囲気だった。

日々細菌と闘っている私としても、牛舎でどの程度気を使われているのかは気になるところだったが、慣れた手つきで1頭づつ丁寧に衛生処理を施し、素早く搾乳される風景は、徹底された管理が行き届いている証拠。

広大な牧場で放牧される牛と、徹底管理された牛舎。これぞ目指していた牛乳の故郷だ。

  • (左)木漏れ日降り注ぐ牧場の片隅に、子牛が入る牛舎が立ち並ぶ。 <br>
(右)子牛とはいえ、牛の舌の力はものすごい。牛タンに弾力があるのもうなずけます。
    (左)木漏れ日降り注ぐ牧場の片隅に、子牛が入る牛舎が立ち並ぶ。
    (右)子牛とはいえ、牛の舌の力はものすごい。牛タンに弾力があるのもうなずけます。
  • (左)搾乳機は1回1回、衛生的にきれいにしてから次の牛に装着。こういう細かいケアが大切です。<br>
(右)子牛といっても食欲は旺盛。
    (左)搾乳機は1回1回、衛生的にきれいにしてから次の牛に装着。こういう細かいケアが大切です。
    (右)子牛といっても食欲は旺盛。

旅の終着点へ

ここがタカナシ乳業北海道工場。
ここがタカナシ乳業北海道工場。
タカナシ乳業北海道工場のボス、斎藤工場長がこの地域について詳しく教えてくれた。
タカナシ乳業北海道工場のボス、斎藤工場長がこの地域について詳しく教えてくれた。
スタッフの方は毎日、集められた牛乳を検査し、問題がないかを確認している。
スタッフの方は毎日、集められた牛乳を検査し、問題がないかを確認している。
タカナシ乳業北海道工場

集められる生乳がたどり着く先。そこが今回の旅の終着点。タカナシ乳業の北海道工場だ。

実は先ほどの農協も牧場も、このタカナシ乳業の北海道工場の斎藤工場長に案内してもらった。

斎藤工場長は、農協や技術センター・牧場にも気軽に出入りでき、そこで働く人びととも、家族のように話す気さくな方で、地域の方々とも絆で結ばれた器の大きそうな方である。

この工場には、大手乳業メーカーの工場に見られるような巨大なタンクがなく、逆に小ぶりなものがいくつも並んでいる。これは農家から集められた牛乳を品質などによって、別々に仕分けているようで、それぞれの目的に合わせた牛乳を分けるためだという。

それぞれの牧場からは2日に1度、低温状態に管理された状態でタンクローリーに乗ってこの工場へ届けられるのだそうだが、その量は1日750トン。年間250万トンにも登る。これは2万2,~3,000頭分の量で、北海道の乳業工場としても2番目の規模だそうだ。

工場内は運ばれてきた牛乳を衛生的に管理するために、パイプの中を通って各工程に仕分けられる。24時間どこでどんな問題が起こっているかも、全てコントロールされるというわけだ。

  • (左)工場内部は衛生管理上、パイプラインがぎっしり。写真はマスカルポーネチーズの生産ライン。<br>
(右)牧場や種類別に各サイロに分けられ、それぞれの製品に使用される。
    (左)工場内部は衛生管理上、パイプラインがぎっしり。写真はマスカルポーネチーズの生産ライン。
    (右)牧場や種類別に各サイロに分けられ、それぞれの製品に使用される。
  • (左)各酪農家から毎日届けられる生乳。なんと1日に750トン。<br>
(右)斉藤工場長と、はいポーズ。高橋パティシエと寺田和菓子開発部長。
    (左)各酪農家から毎日届けられる生乳。なんと1日に750トン。
    (右)斉藤工場長と、はいポーズ。高橋パティシエと寺田和菓子開発部長。
美味しい牛乳を使うことが、食べる人にとって良いことはもちろん、
牛にとっても、その町で働く人にとっても、優しいということ。

美味しさ・安心安全のみならず、その裏側で想像を絶する努力を積み重ねていかれている乳業メーカーや農協。そして、過酷な労働の中、日々牛のお世話と美味しい牛乳つくりを目指している酪農家さんたちの努力にはただただ驚かされるものがあった。

私たちお菓子屋が出来ることは、微々たるものかもしれないが、この町の人々の努力によって生み出された最高品質の牛乳を使い、美味しいお菓子作りに励むことである。

日本の酪農家さんたちは、他国に比べて国の補助も少なく、また日本では小売サイドの値下げ圧力も強いことから、厳しい経営を強いられているところも少なくない。

「日本で取れないなら外国から輸入すればいい」 などと笑っていられる状況ではないのだ。

実際に国産バターはスーパーの棚から無くなり始めています。乳製品まで外国産の比率が高まれば、価格のコントロールを外国に委ねることになり、結局困るのは自分達なのである。

そんな状況の中、少しでも日本の酪農を前進させようと、日々闘っている人たちがいます。私達はその人たちの熱い想いに共感し、人と環境に優しいお菓子作りを目指してまいります。

そして今年も、町に厳しい冬がやってくる。